「ITの専門家ではない経営者や事業部門の人たちにどのように売り込めばいいのでしょうか?」
こんな相談を頂くことがあります。これまで、情報システム部門にしかお客様としてのパイプがなく、行ったこともないというのです。
情報システム部門からは新規の案件は期待できません。既存システムの保守や機能追加の依頼、コスト削減の要請しかないというのです。自分たちのビジネスを伸ばしてゆくためには、経営者や事業部門に直接アプローチするしかありません。しかし、そこにどのようにアプローチすればいいのか、何を話していいのかが分からないというのです。
ITRのレポートによれば、「全IT支出のうちIT部門が決定権をもつ割合」は年々低下しており、2014年度以降、その割合は半分以下にまで下がっています。その背景には、経営者のITへの期待が変わり始めたことがあるのではないでしょうか。
これまでITは生産性の向上やコストの削減に貢献してきました。しかし、そのための取り組みが一巡したいま、経営者はITを武器に収益や顧客の拡大を期待しているのです。つまり、事業を支える「守りのIT」から、事業を伸ばす「攻めのIT」への期待を高めているのです。
この期待に対応できない情報システム部門は、「守りのIT」の役割に専念させられ、新たな価値を生み出せず、コスト削減圧力が一層高まっていることが背景にあるようです。
例えば、IoTや人工知能の話題が世間を賑わすなか、「うちもIoTで何かできないのか?」や「人工知能を使って商品力を高められないのか?」といった、天の声が現場に降り注ぎ、現場がその対応に戸惑っているという話しをよく聞きます。しかし、基幹業務やインフラといった守りのITだけを面倒を見てきた情報システム部門が、このような問いかけに対応することは容易なことではありません。
また、情報システム部門は、「安定稼働して当たり前」であり、それにどれだけの手間と時間を割いていても評価されることはありません。一方で、トラブルがあればクレームに晒され、減点評価されるだけです。そんな企業文化に育てられた情報システム部門が、積極的に新しいコトへチャレンジしようとはしないという現実があります。このような情報システム部門にアプローチを続けてもビジネスの拡大は期待できないのは当然のことです。
ならば、攻めのITの意志決定に大きな影響力を持つ経営者や事業部門へアプローチしようということになるわけですが、情報システム部門と同様の意志決定基準を持たない彼らにどう対応すればいいのか、戸惑いがあるのでしょう。例えば、工数がこれだけかかるから、あるいは、機器や設備はこれだけ必要だからと説明しても、彼らはそんな基準で意志決定はしないのです。
かれらはITを事業投資と捉えます。ROI(Return On Investment:投資利益率)、つまり投資額とそれが生む利益との比率がどれだけ得られるのかを判断基準にします。必要経費ではないのです。では、どうすればいいのでしょうか。
建機大手のコマツがスマートコンストラクションというサービスを提供しています。ITを駆使し土木工事の自動化を実現するサービスで、需要を拡大しているそうです。IoTの先進事例として、よく引き合いに出されますが、このサービスの事業責任者に話しを聞くと、けっして「IoTで何かをやろう」とはじめたわけではないというのです。
工事の現場は、いま高齢化が進んでいるそうです。そのため長年の経験と勘に頼る測量や精緻な作業に対応できる人たちを確保することが難しく、拡大する土木工事の需要に対応できないという課題を抱えているそうです。一方で、少子高齢化や3K仕事への抵抗から若者人材の確保が難しくなっています。仮に採用できても、まともに仕事ができるまでには3年から5年かかるとされ、即戦力を期待することはできません。
この状況を何とかしなければ事業の継続は難しいとの危機感から実現したサービスが、スマートコンストラクションだったそうです。
課題の実感、これに真摯に向き合い、ITを解決策のひとつの選択肢として積極的に取り入れることで実現したこのサービスですが、気がつけば世間で言うところのIoTのスキームにはまっていただけのことだったそうです。広報から、「IoTが流行だから、IoT事例として紹介したい」と相談をうけ、いまではIoT先進事例として広く紹介されるようになったとのことでした。
「ニーズ」と「価値」でITを説明すること
経営者や事業部門の人たちに伝えるべきは、この2つのキーワードです。
「ニーズ」とは、企業が求める「あるべき姿」を実現することです。そこにITがどのように役立つかを説明しなくてはなりません。
いまある課題を解決することばかりが「あるべき姿」ではありません。夢や理想も「あるべき姿」の範疇です。ITがそれを可能にする、あるいは、ITの進化によって、かつては描くことのできなかった夢や理想が現実になることを伝えなくてはなりません。
「価値」とは、その企業の経営指標を向上させることです。営業利益や売上などがあります。社会的評価の向上もあるでしょう。ITが「価値向上」にどのように機能するのかを伝えなくてはなりません。IT投資のROIを示す必要があります。そのための知識と言葉を持つことが、経営者や事業部門の人たちに話すためには必要なのです。
機能や性能、特徴を伝えるのではなく、お客様の事業課題の解決に貢献すること、そしてどれだけの成果が期待できるかを伝えること
その言葉を持たなければ、ITの専門家ではない経営者や事業部門の人たちに売り込むことはできません。
このようなスキルを持つためには、担当するお客様のことや彼らのビジネスについて勉強することは欠かせませんが、そのための最高の教師はお客様自身です。売り込むことではなく、お客様に教えを請うことです。そして、お客様がどのような課題を持ち、それをどうしたいのかを伺うことです。そして、ITの専門家として、ITで何ができるかを考え、お客様と議論しながら、一緒になって解決策を創ってゆく取り組みが必要です。
このような攻めのITを創りあげて行くためには、「何をして欲しい」をお客様から教えていだくことはできません。なぜなら、既存の業務改善ではないからです。前提となる業務がないのですから、「こうしたい」を伝えることはできません。ですから、これからどうすればいいのかを一緒に考えるといった係わり方が必要なのです。
もちろん、お客様や業界について、テクノロジーのトレンドについて、日々学び続けることは大切ですが、結局は個々個別のお客様の事情に向き合わなくてはなりません。それを一番よく知っているのは、経営者や事業部門の人たちです。
いろいろと悩む前に、まずは行って教えを請い、どうすればいいかはその後考えればいいのです。
経営者や事業部門の人たちは、ITについての良き相談相手を求めています。その期待に応えるには、まずはお客様の課題や夢に向き合うために、教えを請うことです。それが結果として、経営者や事業部門の人たちへの売り込になるのです。
【受付開始】ITソリューション塾・第25期
次回の日程が5月16日(火)からに決まりました。詳細日程や正式なお申し込みにつきましては、こちらをご覧下さい。
第25期は、IoTやAI、クラウドといったテクノロジーの最前線を整理してお伝えすることはもちろんのこと、ビジネスの実践につなげるための方法についても、これまでにも増して充実させてゆきます。
また、アジャイル開発やDevOps、それを支えるテクノロジーは、もはや避けて通れない現実です。その基本をしっかりとお伝えするだけでなく、ビジネスに結びつけてゆくための実践ノウハウも、第一人者の講師をお招きし、お伝えします。
さらにIoTやモバイルの時代となり、サイバー・セキュリティはこれまでのやり方では対応できません。改めてセキュリティの原理原則に立ち返り、どのような考え方や取り組みが必要なのか、やはりこの分野の第一人者にご講義頂く予定です。
さて、2009年から今年で8年目となる「ITソリューション塾」の成り立ちについて、少しだけ紹介させて頂きます。
「自社製品のことは説明できても世の中の常識は分からない」
当時、SI事業者やITベンダーの人材育成や事業開発のコンサルティングに関わる中、このような人たちが少なくないことに憂いを感じていました。また、自分たちの製品やサービスの機能や性能を説明できても、お客様の経営や事業のどのような課題を解決してくれるのかを説明できないのままに、成果をあげられない営業の方たちも数多くみてきました。
このようなことでは、SI事業者やITベンダーはいつまで経っても「業者」に留まり、お客様のよき相談相手にはなれません。この状況を少しでも変えてゆきたいと始めたのがきっかけで、既に1500名を超える皆さんが卒業され、昨年からは大阪と福岡でも開講しています。
ITのキーワードを辞書のように知っているだけでは使いもものにはなりません。お客様のビジネスや自社の戦略に結びつけてゆくためには、テクノロジーのトレンドを大きな物語や地図として捉えることです。そういう物語や地図の中に、自分たちのビジネスを位置付けてみることで、自分たちの価値や弱点が見えてきます。そして、お客様に説得力ある言葉を語れるようになるのだと思います。
ITソリューション塾は、その地図や物語をお伝えすることが目的です。
ご参加をご検討頂ければと願っております。
最新版(3月度)をリリースしました!
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
新入社員のための「最新トレンドの教科書」も掲載しています。
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*ビジネス戦略のチャートと解説を充実させました。
*人工知能の動画事例を追加しました。
*大手IT企業の現場改善大会での講演資料を掲載しました。
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ビジネス戦略編 106ページ
新規チャートの追加と解説の追加
【新規】ビジネス・プロセスのデジタル化による変化 p.6
【新規】ビジネスのデジタル化 p.17
【新規】ビジネス価値と文化の違い(+解説) p.19
【新規】モード1とモード2の特性(+解説) p.21
【新規】モード1とモード2を取り持つガーディアン(+解説) p.22
人工知能編 98ページ
【新規】Amazon Alexa (+解説) p.18
【新規】動画での事例紹介 Amazon Go p.94
【新規】動画での事例紹介 Amazon Echo p.95
【新規】動画での事例紹介 Tesla p.96
【新規】動画での事例紹介 Nextage p.97
IoT編 93ページ
LPWAについての記載を追加、また日米独の産業システムへの取り組みについて追加しました。
【新規】LPWA(Low Power Wide Area)ネットワークの位置付け p.47
【新規】ドイツでインダストリー4.0の取り組みが始まった背景 p.82
【新規】アメリカとドイツの取り組みの違い p.88
【新規】インダストリー・インターネットのモデルベース開発 p.90
【新規】日本産業システムが抱える課題 p.91
インフラ編 294ページ
【新規】Googleのクラウド・セキュリティ対策 p.72
基礎編 50ページ
変更はありません。
開発と運用編 66ページ
全体の構成を見直し、チャートや解説を追加しました。
【新規】自律型の組織で変化への柔軟性を担保する p.20
【新規】超高速開発ツール(+解説) p.37
【改定】FaaS(Function as a Service)に解説を追加しました p.39
トレンド編
変更はありません。
トピックス編
変更はありません。
【講演資料】変化を味方につけるこれからの現場力
大手IT企業の改革・改善活動についての全社発表会に於いての講演資料。
・実施日: 2017年1月25日
・実施時間: 90分
・対象者:大手IT企業の改善活動に取り組む社員や経営者
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新刊書籍のご紹介
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これからのビジネスを創るITの基礎の基礎
- ITの専門家ではない経営者や事業部門の皆さんに、ITの役割や価値、ITとの付き合い方を伝えたい!
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