ユーザーが情報システムに求める価値は、「ビジネスの成果への貢献」です。しかし、その手段を提供することを自分たちの事業目的と考えているのなら、お客様の利益とは相反することになります。インフラ構築、アプリケーション開発、運用管理などの手段の提供はユーザーの求めるビジネス・ゴールではありません。
ビジネス環境の変化が緩やかであり、情報システムの役割が自社内に閉じた基幹業務に限られていた時代であれば、ユーザーは情報システムに求める機能を明確にできました。要求の変化は比較的少なく、数ヶ月や1年を超える仕様凍結でも、一度決めた仕様の変更は限られていたのです。ですから、要求仕様通りにQCDを厳守してシステムを開発することは理にかなっていたのです。
しかし、時代は変わってしまいました。ビジネス環境の不確実性が高まり、ビジネス・ニーズの変化は突然に訪れます。情報システムとビジネスとの一体化が進み、もはや情報システム無しではビジネスは機能しません。ましてや顧客接点がインターネットへと拡がり、モバイルやWebが収益を生みだす情報システムにおいては、変化への対応は経営の死命を制することになります。ビジネス環境の変化に即応してビジネス・プロセスを変え、それと同期して情報システムも変えなければなりません。
しかも、要求仕様は変化し続けますし、要求仕様が何かが分からないままに情報システムを開発しなければならないこともあります。このような時代にかつてのやり方は通用しません。
いまも昔も情報システムの目的は、「ビジネスの成果への貢献」です。しかし、どうすれば貢献できるかをユーザー部門は情報システム部門に明示すことはできません。ユーザーは答えを模索し、情報システム部門は彼らと一緒になってその答えを探さなくてはなりません。もはや「変わらない仕様書」を書き上げることはできず、その時間的余裕もありません。このような状況にあって情報システムに求められる品質は、
- 生産量:できるだけ少ない工数
- スピード:短期間でリリース
- 最大化:このサイクルを維持し続ける
となるのでしょう。このような仕組みを実現するには次のような3つの取り組みが必要になります。
アジャイル開発
ユーザーと開発者が課題を共有し、協調・連係しながら、ビジネス・ニーズを情報システムに仕立て上げてゆく取り組みです。働き方や組織のあり方、業績評価の基準を変えてゆかなければなりません。
開発者はユーザーの要望に応じて、実際に動く情報システムである「現物」を提供し、ユーザーはその「現物」でビジネスへの貢献を「実感」で評価し、改善すべきコトをフィードバックする。このサイクルを短期間に繰り返し、ビジネス環境の変化に迅速・柔軟に同期するシステム開発の仕組みを実現しなくてはなりません。
DevOps
開発した情報システムは本番環境に移行されなければ、ビジネス価値を享受することはできません。開発したら直ちに本番環境で実行できる仕組みを作り、維持する取り組みが必要です。
開発者は開発、変更した情報システムを直ちに本番へ移行したいと考えますが、運用管理者はシステムの安定稼働を維持することに責任があります。開発者の要求を受け入れ直ちに本番へ移行することにはリスクが伴います。そのため、両者のタイミングはずれることが多く、本番移行の頻度は制約を受けます。
この状況を解消するためには、お互いがそれぞれの役割に敬意を払い、お互いに協調・連係しながら、解決策を模索しなければなりません。
開発者は本番環境に影響を与えることのない、あるいは変更や追加が容易にできる開発の考え方や手法を取り入れなくてはなりません。運用者はその取り組みを支え、開発者が1日に何度でも本番に移行しても安定運用が維持され、運用手順や運用管理のセルフ・サービスや自動化の仕組みを構築してゆかなければなりません。
クラウド
開発や運用管理がスピードに対応できても、開発や運用の環境が物理的な機械の導入や設定に頼っていては成果をあげることはできません。
サーバーやストレージ、ネットワークなどのインフラ、OSやデータベースなどのプラットフォームの調達、導入、変更がソフトウェアの設定だけで実現できなくてはなりません。また、その運用管理も自動化しなくてはなりません。そのための仕組みとしてクラウドは前提となります。
しかし、突き詰めてゆけば、インフラやプラットフォームは、アプリケーションにとっては、黒子のような存在です。ならば、その存在や運用を意識することなく開発できれば、開発のスピードは加速し柔軟性も高まります。クラウドをそんなレベルで使うのが「サーバーレス」という考え方です。
ユーザー部門が最終的に必要なのは、「ビジネス・プロセス」の実現とそこから生まれる「データ」です。「ビジネスの成果に貢献する」とはこれをいち早く実現することに他なりません。
そのためには、できるだけインフラやプラットフォーム、場合によってはアプリケーションを所有せず使用で済ませ、できるだけ作らないことが理にかなっていますか。
これは「手段を提供する」ビジネスとは明らかに利益相反の関係にありますが、この現実から逃れる術はありません。ならば、この変化への対応を先導し、多の企業に先駆けて、自分たちの既存のビジネスを破壊する覚悟が必要になるでしょう。
以前、建設機械大手のコマツで、土木工事の自動化サービス「スマートコンストラクション」を手がける事業責任者に「メーカーとしての製造・販売ビジネスと利益相反になるのでは?」と伺ったことがあります。彼は、次のように答えてくれました。
「確かに反対もありました。しかし、誰かがいずれ同じことをはじめるでしょう。ならば、自分たちが先んじて取り組むことで、ビジネスのイニシアティブを取った方が得策だと判断しました。」
SIビジネスもまた同様の判断が求められているのではないでしょうか。
【募集中】ITソリューション塾・第24期
来年最初のITソリューション塾・第24期を2月8日(水)から開催します。第24期は、IoTやAIのビジネス戦略にも一層切り込んでみようと思っています。また、情報セキュリティの基本やDevOpsの実践についても、それぞれの第一人者から学びます。多くの皆様のご参加をお待ちしています。
- 会場 : アシスト株式会社・本社@市ヶ谷
- 日程:2月8日(水)〜4月26日(水)の毎週1回×11回 *但し、3月最終週は休みとなります。
- 時間:18:30〜20:30
- 定員:80名(前回参加者 84名)
お願い
- 毎期早い段階で定員に達しています。手続き等で時間はかかるが、参加のご意向をお持ちの場合は、事前にメールにて、その旨をお知らせください。
- 個人でのご参加の場合は、消費税分を割り引かせて頂きます。
- 今回の期間は、予算期を跨ぐところもあるかと思いますが、今期または来期のいずれか、または、両期に分けて支払いという場合は、個別にお知らせください。
詳細のご案内、および、スケジュールのPDFダウンロードは、こちらをご覧下さい。
新刊書籍のご紹介
未来を味方にする技術
これからのビジネスを創るITの基礎の基礎
- ITの専門家ではない経営者や事業部門の皆さんに、ITの役割や価値、ITとの付き合い方を伝えたい!
- ITで変わる未来や新しい常識を、具体的な事例を通じて知って欲しい!
- お客様とベンダーが同じ方向を向いて、新たな価値を共創して欲しい!
斎藤昌義 著
四六判/264ページ
定価(本体1,580円+税)
ISBN 978-4-7741-8647-4 Amazonで購入
人工知能、IoT、FinTech(フィンテック)、シェアリングエコノミ― 、bot(ボット)、農業IT、マーケティングオートメーション・・・ そんな先端事例から“あたらしい常識” の作り方が見えてくる。
2017年1月 最新の改訂版をリリースしました!
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
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*「コレ1枚でわかる最新ITトレンド(2017年度版)」を新規に作成しました。
*先進技術編では、解説を大幅に追加、刷新し、新たなチャートも追加しています。
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【インフラ&プラットフォーム】(293ページ)
【更新】コンテナ型仮想化・改訂版の解説を改訂しました p.175
【新規】SD-WAN p.184
【ITの歴史と最新トレンド】(14ページ)
*これからのビジネスを考える参考となるよう、「コレ1枚でわかる最新ITトレンド(2017年度版)」を新規に作成しました。
【更新】デジタル化の歴史の解説を追加しました
【新規】コレ1枚でわかる最新ITトレンド(2017年度版)を新規に追加し、解説も加えました。
【サービス&アプリケーション・基本編】
*運用と開発のプレゼンテーションが増えたことから、基本編と運用と開発編に分割しました。
基本編(50ページ)
変更はありません
開発と運用編(64ページ)
【更新】これからのシステム開発のチャートを改訂し、解説を追加しました p.5
【更新】DevOpsとは何か?の解説を追加しました p.19
【新規】仮想マシンとコンテナの稼働率 p.74-77
【更新】DevOpsとコンテナ管理ソフトウェアの解説を改訂しました p.78
【新規】FaaS(Function as a Service) p.79
【テクノロジー・トピックス】(49ページ)
変更はありません
【サービス&アプリケーション・先進技術編】
IoT(92ページ)
【更新】IoTとM2Mの解説を追加しました p.7
【更新】IoTの定義の解説を改訂しました p.15
【更新】コレ1枚でわかるIoTのチャートと解説を改訂しました p.18
【更新】デジタル・ツインの解説を改訂しました p.23
【更新】モノのサービス化の解説を改訂しました p36
【更新】ビジネス価値の進化の解説を改訂しました p.38
【更新】IoTと機能と役割の4段階の解説を改訂しました p.41
【更新】クラウドから超分散への解説を改訂しました p.46
人工知能(93ページ)
【新規】コレ1枚でわかる人工知能とロボットの新たなチャートを追加し解説を載せました p.9
【更新】産業発展の歴史から見る人工知能の位置付けの解説を改訂しました p.317
【新規】ディープラーニングが注目される理由の新しいチャートと解説を追加しました p.24
【新規】弱いAIと強いAIについて、新しいチャートと解説を追加しました p.32
【更新】人工知能に置き換えられる職業について、解説を追加しました p.64
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