「IBMはレノボにx86サーバー事業を売却することで、日本でのブランド力を失ってしまう、ということでしょうか?」
先週のブログをご覧になった方から、こんなご質問を頂きました。しかし、これは、すこし違っています。
x86サーバー事業のレノボへの売却はあってもなくても、それ以前の問題として、IBMというブランドを日本のマーケットに定着させ、愛着を持っていだけるような組織的取り組みや、それを支える営業施策や体制が、思惑通りにうまく機能してこなかったことが、本質的な問題だろうと思っています。
ハイコンテクストを求める日本の特殊性に適応できていないことが、今の日本IBMが抱える課題の本質ではないでしょうか。レノボの一件は、この文脈の中で起きた出来事であり、この流れを加速させるかもしれませんが、日本IBMの抱える問題の本質ではありません。
本論からは少しずれますが、レノボにx86サーバー事業を売却してしまうと、新規の中小企業顧客に売ることができるIBMブランド製品がほとんどなくなってしまいます。そうなると、ますます中小企業における日本IBMの存在感の低下に拍車がかかるのではないかと懸念しています。
確かに、クラウドサービスであるSoftLayerはありますが、未だ中小企業はクラウドに消極的です。いずれは、そんなことも言ってはいられない時代にはなるでしょうが、直近に対処できません。また、SoftLayerは、AWSやNTTコミュニケーションズのcloudnなどと同様に、ユーザー自身が構築・運用するセルフサービス型のクラウドです。システムの構築や運用を地場のITベンダーに任せている中小企業が自分達で使いこなすことは容易なことではありません。
それでは、日本IBMが構築や運用を代行するかとなると、十分な体制もなければ、金額の折り合いもつかないでしょう。では代理店はというと、先週も申し上げましたが、IBMに対するロイヤリティが失われれば、SoftLayerを担ぐ必然性はなく、また、そもそも短期的な収益が見込めないクラウドサービスに積極的にはなれないことも課題となります。
IBMが先日発表したPaaSであるBlue Mixを担ぐことをIBMの代理店は打診されているようですが、PaaSはIBMに限らず未成熟な領域です。今後、サービスや機能が大きく変わってゆくことは不可避です。その段階にあるものをお客様に提供することや、その上でのシステム開発を受託することに積極的にはなれません。
このままこのような事態を放置すれば、なんとか個人力でこのギャップを埋めようと頑張っている日本IBMの営業の現場が、ますます疲弊するのではないかと危惧しています。
「外資系企業は、グローバル戦略や施策を日本に無理矢理押しつけようとしてくるじゃないですか。結局、日本の実情なんか聞こうとしないから、うまくいかないんですよ。IBMも一緒じゃないんですか?」
こんなご意見も頂きました。しかし、これについても、私は違う意見を持っています。
グローバル戦略そのものが間違えだとは思いません。むしろ、IBMのグローバル戦略は、我が国の企業にとって、見習うべきことは多いと思っています。IBMは世界中でブランドが認知され、大きなビジネスを行っている真のグローバル・カンパニーです。グローバルを標榜しつつ、その実態は極めてジャパン・ローカルな意志決定のメカニズムに支配されている日本の企業には、とてもできないグローバル・ビジネスを展開しています。
「問題はグローバル化すべき所と、できない所の見極めだと思います。コストが安くなるから、何でもかんでも世界基準にしてしまうと当然ローカルの反発を喰らいます。ここは地域の文化や習慣に根ざした人間系の部分ですから。」
こんなご意見も頂きましたが、全くその通りだと思います。統制することと自由度を与えることのバランスは、大企業になればなるほど難しいことです。事実、IBMに限らずグローバル企業が常に直面している問題です。
「日本以外の企業を全て外資とひとくくりにして、冷淡、厳しいとするのは少し違和感があります。色々な国があるし、IBMもご存じのように個人の尊重とか、完全性の追求とか素晴らしい理念を持っています。その理念が失われているわけではありません。」
IBMをよく知る方からこんなご意見を頂きました。私も同感です。先週のブログで紹介させていだきましたが、IBMを辞めてもIBMを大好きな人が少なくないのは、こういう理念のもとで、働いてきたからではないでしょうか。それが企業の文化を作り、人を作ってきたのだろうと思います。
問題の本質は、そういうIBMのグローバルな取り組みの中で、日本の商慣習や文化を米国本社に正しく伝え、日本ならではの施策を許容させられない日本IBM側に課題が多いのではないかと思っています。その背景には、日本という国、あるいは、日本法人である日本IBMのグループ全体における相対的地位の低下が、訴求力を失わせてしまったことにあるのだろうと思っています。
2001年度の日本IBMの売上高は1兆7075億円、営業利益は1809億円でした。これが、2012年度には、売上高は8499億円、営業利益は966億円と共に半減しています。
これは、相対的地位が低下したから訴求力がなくなったのか、訴求力がなくなったから、相対的地位が低下したのか、鶏が先か卵が先化の議論になってしまいそうですが、事態は深刻です。
もうすこし突っ込んで言えば、日本ならではという極めて曖昧でハイコンテクストな現実をうまく説明できず、説明がつかないのならば、このやり方でやりなさいと、結果として日本の実情にそぐわない施策を求められているのではないかと思うのです。
グローバル企業であることとローカル企業であることを両立させなくてはなりません。外資系企業であれ、日本企業であれ、グローバル化した社会の中で、いま多くの企業が直面しているジレンマなのではないでしょうか。日本IBMもまた、このジレンマの中で、もがいているのでしょう。
1975年から1991年まで、日本IBMの社長を努められた椎名武雄氏は、「Sell IBM in Japan, sell Japan in IBM.」を標榜し、IBMを日本に売り込むことだけではなく、日本を米国のIBMに売り込むことに腐心されていたと聞いています。そして、日本企業以上に「日本企業」にならんと、日本の経済界への係わりにも力を注がれてきました。また、ユーザーや代理店の団体にも積極的な支援を行ってこられたと聞いています。
「そんなことは景気も業績も好調だった昔だからできた話。今は状況が違うんだから、同じようなことはムリ」
そんな声も聞こえてきそうです。しかし、日本という国の固有な文化や、その上に築かれた精神構造が、大きく変わっていとは思えません。手段は異なるかもしれませんが、日本というハイコンテクストな社会に適応するための施策が、その必要性を失っているとは思えません。
グローバル企業が、拠点を持つ国々の多様性とどのように向き合い折り合いをつけてゆくかは、いずれにしても日本IBMだけの問題ではないでしょう。いま日本IBMの抱える問題は、グローバルへの拡大が待ったなしの日本の企業が直面する問題でもあるのです。
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